【第3回】「燃えている感覚」はない。でも呼吸から燃料の使い方を推定できる

【第3回】「燃えている感覚」はない。でも呼吸から燃料の使い方を推定できる

前回の記事では、体が使う糖質と脂質の割合は、食事や運動、そのときの体の状態によって変化することを紹介しました。

では、自分の体がいま糖質と脂質のどちらを多く使っているのか、感覚でわかるのでしょうか。

脂質が多く使われているとき、体にはどんな感覚があるでしょう。

体が熱くなる?

汗をたくさんかく?

心拍数が上がる?

実は、どれも「脂質が多く使われている証拠」とは言えません。

私たちには、「いま糖質をどのくらい、脂質をどのくらい使っている」と直接感じ取る感覚はありません。

では、科学者は体が使っている燃料をどうやって調べてきたのでしょうか。

その重要な手がかりの一つが、呼吸です。

汗や心拍数だけでは、使っている燃料はわからない

汗をたくさんかけば、「脂肪が燃えた気がする」と感じるかもしれません。

しかし、汗の主な役割は体温調節です。

トレッドミルで走る男性

心拍数は運動の強さを知る重要な手がかりですし、「かなりきつい」「楽に感じる」といった感覚も、運動強度を知る参考になります。

ただし、それらから体が糖質と脂質のどちらをどの程度使っているのかを直接知ることはできません。

そこで代謝研究では、呼吸によるガス交換を調べることで、体のエネルギー消費量や、どのような燃料を使っているのかを推定する方法が古くから用いられてきました[1,2]。

科学は昔から「呼吸」から代謝を調べてきた

なぜ、呼吸が代謝を知る手がかりになるのでしょうか。

呼吸をする男性

私たちの体が糖質や脂質からエネルギーを取り出すときには、酸素(O₂)を使い、二酸化炭素(CO₂)を生み出します。

そして、糖質と脂質では、エネルギーを取り出すときの酸素と二酸化炭素の関係が異なります[1,2]。

この違いを利用して、代謝研究では古くから、呼吸によるガス交換を測定することで、体全体のエネルギー消費量や糖質・脂質の利用を推定してきました。

つまり、私たちが何気なく繰り返している呼吸には、体がどのようにエネルギーを得ているのかを知る手がかりが含まれているのです。

呼吸を使った代謝測定は、研究の世界で使われてきた

呼吸から代謝を調べる代表的な方法に、間接熱量測定(indirect calorimetry)があります。

専門的な装置を使って、体が取り込む酸素と吐き出す二酸化炭素などを測定し、その関係からエネルギー消費量や糖質・脂質の利用を推定する方法です[1,2]。

こうした方法は、代謝研究などで長く用いられてきました。

一方で、専門的な装置や測定環境が必要になるため、日常生活の中で何度も繰り返し測定することを目的としたものではありません。

近年では、センサーやデータ解析技術の進歩によって、呼気に含まれる情報を日常生活の中で活用する技術も登場しています。

Lumenは、呼気中のCO₂から燃料の使い方を推定する

Lumenも、呼吸に含まれる情報を利用して代謝状態を捉えるデバイスです。

Lumenとスマートフォンを手にする女性

Lumenに息を吹き込むと、呼気中のCO₂濃度を測定し、そのデータを独自のアルゴリズムで解析することで、体が糖質と脂質のどちらをより多くエネルギー源として利用しているかを推定します。

測定結果は、アプリ上でわかりやすく表示されます。

ここで大切なのは、「脂質を使っているから良い」「糖質を使っているから悪い」と判断するためのものではないということです。

第1回、第2回で見てきたように、体は糖質と脂質の両方を使い、その割合は食事や運動、そのときの体の状態によって変化します。

だからこそ、1回の測定結果だけではなく、

食事をしたあと。

運動をしたあと。

食事から時間がたったとき。

といった場面で、自分の燃料の使い方がどのように変化するのかを見ることも、代謝を理解する一つの方法です。

※測定は、医療での使用を目的としたものではありません。
※当該プログラムは、疾病の診断、治療又は予防に使用されることを目的としていません。

「いま何を使っているか」から、「どう変わるか」へ

ここまでの3回で、

第1回では、体は糖質と脂質という2つの主要な燃料を使っていること。

第2回では、その使う割合は食事や運動などによって変化すること。

そして今回は、その燃料利用を呼吸から推定するという考え方を紹介してきました。

ここから、もう一つ興味深い見方が生まれます。

ある瞬間に「糖質を使っている」「脂質を使っている」と見るだけでなく、

状況が変わったときに、体が燃料の使い方をどのように変えるのか。

という見方です。

こうした、状況に応じて燃料の使い方を調整する能力は、「代謝の柔軟性(metabolic flexibility)」と呼ばれています[3]。

次回は、この「代謝の柔軟性」とは何なのかを見ていきます。

この記事のポイント

  • 汗や心拍数、「きつさ」だけでは、糖質と脂質の利用状況を直接知ることはできない
  • 糖質と脂質では、エネルギーを取り出すときの呼吸によるガス交換に違いがある
  • 代謝研究では、呼気ガスからエネルギー消費や燃料利用を推定する方法が古くから用いられてきた
  • Lumenは呼気中のCO₂濃度を測定し、独自のアルゴリズムによって糖質と脂質の利用状況を推定する
  • 1回の結果だけでなく、食事や運動などによって燃料の使い方がどう変化するかを見る、という考え方もできる

参考文献

  • [1]Metabolism. 1988 Mar;37(3):287-301.
  • [2]J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1983 Aug;55(2):628-34.
  • [3]Cell Metab. 2017 May 2;25(5):1027-36.